2024.8.11メッセージ内容

「なぜエジプトに?」 出エジプト1:8-22

神はこの助産婦たちに良くしてくださった。そのため、この民は増えて非常に強くなった。(20節)

創世記は、大飢饉の時にイスラエル(ヤコブ)が子孫たちと共にエジプトへ移住した記事で終わっています。神がアブラハムに約束された地はカナンだったのに、なぜ彼らは移住したのでしょうか。出エジプト記はこの疑問に答えるだけでなく、約束の地に戻ることの意義を述べるのです。

一、繁栄の経験

エジプトの総理大臣だったヨセフの招きによって、ヤコブの一族70人とその雇人たちは、彼らの生業だった牧畜に最も適しているゴシェンの地に住むことになりました。それから約300年間に、何と60万世帯にまで増加したのです。カナンの地よりはるかに土地の生産力が豊かだったからです。アブラハムに与えられた祝福の約束は、部分的に実現したと言えるでしょう。

 経済的には繁栄したかもしれませんが、エジプトは神の約束された地ではありませんでした。繁栄の陰には必ず、問題が潜んでいます。豊かになればなるほど、神にではなく物を信頼するようになるからです。そのことを憂いていた人たちもいたに違いありません。彼らは、本来の約束の地であるカナンに戻るべきだと考えていました。後に登場するモーセにその影響が見られます。

二、苦難の経験

ヨセフの時代のエジプト王は外来民族のヒクソス人でした。しかし、本来のエジプト民族が彼らを追い出して支配権を回復したとき、イスラエル民族は迫害されるようになりました。彼らの人口が多くなることは、エジプト人にとっては脅威だったのです。それゆえ、新しい王はイスラエル民族を奴隷とし、ピラミッドなどを建造するため、彼らに重労働を科したのです。

社会情勢の変化で特権階級が零落するのは歴史上、よくあることです。しかし、この苦難によって、彼らはイスラエル人としての一体感を取り戻していきました。苦難の中でこそ、彼らは助け合い、神のみ旨は何なのかを祈り求めたことでしょう。アブラハムもエジプトの地に逃れたことがありましたが、そこからカナンの地に戻ってきたことも、先祖からの言い伝えで知っていたにちがいありません。

三、救いの経験

エジプト王のファラオが「新生児を殺せ」という非人道的な命令を出したときも、神を恐れる助産婦たちはその命令に従いませんでした。命は神から与えられるものだと確信していたからです。神の命令は王の命令よりも強いことは良く知っていました。そしてこれから数年後、モーセが生まれ、王の娘によって命が救われ、イスラエル人でありながら王家で育てられるようになったことも、神の摂理でした。そして、彼がイスラエル人をエジプトから救い出すことになります。

モーセはエジプト王家で当時の最高の学問を身につけただけではありません。実の母に育てられることによってイスラエルの伝承もしっかりと理解したのです。そして彼らをエジプトの奴隷から解放して、真の神に自由に仕える者にしようとされたのです。そのために、荒野の40年間は、モーセが将来のために備える訓練の時でした。

一家族だったアブラハムの子孫がエジプトで一民族に成長し、さらに神の民となっていくためには、エジプトでの繁栄と苦難、また出エジプトの経験が不可欠でした。この経験はその後1500年にわたって彼らの記憶にとどまり、神の救いを理解する助けとなったのです。

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